はじめに
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このページは、タイトルの通り映画「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」のネタバレを含んでいます。鑑賞がお済でない場合は読まないことをお勧めします。
とくにこの映画は、前情報を入れずに鑑賞したほうが楽しめるお話です。
感想(ネタバレあり)
・鑑賞前の期待と幻滅
前作「ジョーカー」も、もちろん劇場で鑑賞済みです。前作では、内面に脆弱性を抱えた一人の男が「悪」を萌出していくという内容で、その丁寧で鮮烈な描写にすさまじいインパクトを受けました。
今作はその続編。私は期待していたのです。「悪」が萌芽した主人公が、「ジョーカー」としてカリスマ性を放っていくダークストーリーを……。「フォリ・ア・ドゥ」という意味に沿った、二人で狂気へと堕ちて、社会全体へ悪を穿つカタルシスを期待していたんです……。
まさかこんな結末になるとは思いませんでした……。
・鑑賞直後は「酷い!」と思った。
騙された! あの法廷爆破のシーンあたりから「え……え……嘘でしょ…… 冗談でしょう……?」と呆然としました。きっと次のシーンで、アーサーに幻滅したリーが助けに来てくれるのではないか。アーサーは救出されて、脱獄できるはず。きっとラストシーンでは、道化の化粧を浮かべて混沌とした街へ踊りでる「ジョーカー」が見られる。そう思ってたんですが……。
エンドロールあたりまでは「ひ、酷い! 騙された! なんて映画だ!」と軽く憤りすら覚えました。しかし映画館から駅へ向かう道のりの途中で、「あ、これも制作側の計算なのか」と思いました。
街の住民も、リーも、そして劇場へ足を運ぶ観客すらも「ジョーカー」を望んでいた。暴力に満ちたお話の先で、ジョーカーが自由を手に入れ、悪の華を咲かせる。そんな残酷で非道なカタルシスを求めていた。けれど実際はそうではない。ジョーカーなんていない。法廷に立つ男は、悪のカリスマなどではなく「アーサー」という一人の人間だった。
裁判を傍聴していた市民たちは、最後のアーサーの言葉に幻滅して法廷から退出します。そして「アーサー」ではなく「ジョーカー」を信奉していたリーは、アーサーを見放して彼のもとから去っていく。ラストにかけての流れはまさしく、監督から観客に突き付けられたものなのだと思いました。「あなたも彼に幻滅したでしょう? 心の奥底で、『ジョーカー』へ期待して、非道な殺しを見たかったんでしょう?」と言わんばかりに。
・「救い」はあるのか
映画の中盤くらいまで、「あ、この男は救済の余地がないな」と思っていました。冒頭のアニメーションから「アーサー」と「ジョーカー」の二つの側面が際立って描写されている。映画中盤から始まるアーサーの裁判も、「一連の殺人事件を引き起こしたのは、アーサーか?それとも彼から乖離した人格であるジョーカーか?」という争点で進行していきます。
前作を鑑賞していると彼の犯行は乖離(もう一つの人格)ではないとほぼ断言できますが、物語の終盤にさしかかるまでアーサーはジョーカーとして生きる道を選んでいきます。それは、市民とリーが「ジョーカー」を望んでいるから。前作が「萌芽」のお話ならば、今作はアーサーの精神を脱ぎ捨てて、市民とリーが手招くままにジョーカーとして生きていく……と思っていたのです。ならば彼に救済の余地はない。悪のカリスマとして生きる道を選ぶのであれば、この男は救えない。
……と思っていました。しかし、ゲイリー・パドルズが法廷で涙ながらに語る言葉が、その判断を覆す。アーサーは心優しい人間だ。君だけは僕を笑わなかったじゃないか、と。
アーサーは直後に、パドルズの姓を侮辱する走り書きへ、自ら線を引いて消す。悪として生きようとしていた心へ、罪悪感が芽生えたのです。
結局、彼はジョーカーではない。アーサーという一人の人間だった。
ブラックラグーンの台詞で「誰かがほんの少し優しければ」という言い回しがあったと記憶していますが、本作もその通りだと思います。リーが「ジョーカー」ではなく「アーサー」も含めて見てくれたら。パドルズの言葉が、もう少し早く(アーサーが弁護士を解雇する前に)彼の心に届いていれば。市民が、マスコミが、センセーショナルなカリスマを求めるだけでなく、もう少しアーサーそのものへ着目してくれたのなら。たとえ極刑は免れなかったにしろ、きっと結果(へ至る過程)は違ったのでしょう。まあ、そんなものは不可能に近いわけですが……。
この映画で一番恐ろしいのは誰なのでしょうか。私は大衆だと思います。
センセーショナルで、カリスマがあって、ほの暗いカタルシスを満たしてくれるような、そんな偶像を求めて扇動する大衆が、観客が、自分の加虐心が、恐ろしい。
この記事は2024/10/25に常磐光紀が作成しました。
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